それではいよいよTm値を計算していきましょう。
計算方法を知りたいのではなく、
手っ取り早く今、Tm値を計算したいんだよ!!という方はこちら
lifesciencehack-ai.hatenablog.com
↓↓これまでの記事はこちら↓↓
● PCRプライマーのTm値の計算機を作ってみよう① 〜相補鎖配列とGC含量の計算〜
まずはTm値の計算法について説明します。
Tm値の計算法は一つではなく、様々な計算式が考案されています。
どれが正しいとかではなく、目的に合わせて使い分けると良いかと思います。
今回は、単純なWallace 法と最も信頼性が高いといわれる最近接塩基対法を
実装したいと思います。
Wallace法
Wallace法はとっても単純です。
プライマーの配列中のAとTの数の総和に2を掛けたものと
GとCの数の総和に4を掛けたものを足すだけです。
Tm = 2 x (AとTの数の総和) + 4 x (GとCの数の総和)
最近接塩基対法
Wallace法はとても簡単なので、全部Wallace法で計算できると良いのですが、
プライマーが長くなると誤差が出てきて使い物になりません。
そこで18塩基以上のプライマーでは、実測値に最も近いといわれる
最近接塩基対法を用いたいと思います。
最近接塩基対法はそんなに複雑なものではないのですが、
あまり詳しい解説記事を見かけないので、参考になれば幸いです。
Tm = (1000 x ΔH) /( -10.8 + ΔS + 1.987 x ln(Conc/4)) - 273.15 + 16.6log[Na+]
ΔH:実験的に求めた最近接エンタルピーの合計(後述)
ΔS:実験的に求めた最近接エントロピーの合計(後述)
Conc:プライマーの濃度(M) (標準は0.5 μM)
Na+:ナトリウム濃度(M) (標準は50 mM)
簡単に説明すると
プライマーの隣り合う塩基同士のすべての組み合わせに対して、エンタルピーおよびエントロピーが定められており、
その総和が式中のΔHやΔSとなります。
最近接塩基対法のパラメーター一覧
具体的な最近接塩基対法の計算法に入る前に、
エンタルピーやエントロピーの計算に使うパラメーターを示します。
Interaction (5'→3'/3'←5') | ΔH [kcal/mol] | ΔS [cal/mol・K] |
---|---|---|
AA/TT | -9.1 | -24.0 |
AT/TA | -8.6 | -23.9 |
TA/AT | -6.0 | -16.9 |
CA/GT | -5.8 | -12.9 |
GT/CA | -6.5 | -17.3 |
CT/GA | -7.8 | -20.8 |
GA/CT | -5.6 | -13.5 |
CG/GC | -11.9 | -27.8 |
GC/CG | -11.1 | -26.7 |
GG/CC | -11.0 | -26.6 |
最近接塩基対法の実際の計算方法
では、上の表を参照に計算していきましょう。
隣り合う2塩基の組み合わせに対してすべてを上の表と参照していきます。
今回は、ATGACCGTA という配列を例に取ります。
隣り合う組み合わせは、
AT、TG、GA、AC、CC、CG、GT、TA の8つですね。
ΔHの総和 = AT(-8.6) + TG(-5.8) + AC(-6.5) + CC(-11.0) + CG(-11.9) + GT(-6.5) + TA(-6.0)
= 56.3
ΔSの総和 = AT(-23.9) + TG(-12.9) + AC(-17.3) + CC(-26.6) + CG(-27.8) + GT(-17 .3) + TA(-16.9)
= 142.7
これを最近接塩基対法の計算式に当てはめると、
Tm = 26℃となります。
最近接塩基対法の計算方法がわかったので、
次回から実際に実装していきたいと思います。
↓↓次の記事↓↓